キャリソル株式会社
アクセス東京都/板橋区/徳丸 12丁目34番5号
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代表取締役社長「相屋 樹」様インタビュー
企業インタビュー
公開:2025.04.15
更新:2025.04.15

1979年に先代社長(現会長)が設立したキャリソル株式会社。
2010年に社長就任後、15年間がむしゃらに突っ走ってきたと話す代表取締役社長「相屋 樹」様。
二代目社長としてスタートしたきっかけや背負ったもの、今後の展望についてインタビューしました。
略歴
キャリソル株式会社 代表取締役 相屋 樹(アイヤ イツキ)様
群馬出身。
1995年に群馬科学医科大学看護学科卒業。当時はやや珍しい男性の正看護師として群馬科学医科大学病院で勤務。
3年勤務後「キャリソル訪問看護ステーション」に入社。
地区看護部会の副部会長を兼任しながら、管理者として後輩育成や経営者視点を学び始め、2010年に二代目社長として事業継承。
社長になってからはあっと今に駆け抜けた15年間だったと当時のこと、これからのことをインタビューしました。
なぜ事業を継承されたのですか
私はもともと、訪問看護ステーションの正看護師としてこの会社に入職し、日々ご利用者さまのご自宅を訪問して看護を行っていました。訪問看護の仕事は、病院とは違って一対一の関わりが深く、看護師としての技術や判断力はもちろん、ご家族との信頼関係や地域とのつながりなど、多くの力が求められる仕事です。現場で働くなかで、私はこの「在宅医療の現場」こそが、これからの日本にとってとても重要な場所だと強く感じるようになりました。
私の父がこの会社を立ち上げたのは、まだ「訪問看護」という言葉すら今ほど知られていない時代でした。自宅で最期まで過ごしたいと願う人たちの声に応えたい。そんな想いから一軒一軒、地域に信頼を積み重ねながら事業を広げていったのです。私はそんな父の背中を見て育ち、気づけば同じ分野で看護師として働くようになっていました。ただ、当初は「事業を継ぐ」ことまでは考えていませんでした。現場の仕事にやりがいを感じていましたし、経営の世界は自分には遠いもののように思えたからです。
そんな私の気持ちに変化が生まれたのは、ある利用者さんのご自宅を訪問したときのことでした。退院後、家での生活に不安を抱えていたその方は、「このサービスがなかったら、うちは家で生活を続けられなかった」と涙ぐんでおっしゃったんです。その時、ふと胸によぎったのが、「もしこのステーションがなくなったらどうなるのだろう?」という思いでした。
訪問看護は、病院とは違い、地域の暮らしに密着したサービスです。スタッフの顔が見える距離で、心のケアまで届けられる貴重な存在です。しかし一方で、人材確保や経営の安定化、制度の変化への対応など、事業としての持続可能性を真剣に考えなければ、このサービスを未来に残すことはできない。現場を知っているからこそ、私には「現場と経営の橋渡しができる」という自負がありました。そして、父の築いてきた想いを絶やさず、時代に合った形に進化させていくために、私が引き継ぐべきだと自然と思うようになったのです。
事業継承には不安もたくさんありましたが、それ以上に「守りたい」「広げたい」という気持ちが大きかった。私は看護師としての視点を活かしながら、スタッフの働きやすさや教育体制の整備、ICTの導入など、新しい仕組みづくりにも積極的に取り組んでいます。「現場から生まれた経営」がこの会社の強みになり、地域にもっと信頼されるステーションへと成長していけたらと考えています。
設立はお父様だったんですね
はい、そうなんです。実は、私の父がこの訪問看護ステーションを立ち上げたのが始まりです。もともと医療や福祉に強い関心を持っていた父は、「病院だけでは支えきれない在宅のニーズに応えたい」という思いから、まだ訪問看護が今ほど一般的ではなかった時代に、この事業をスタートさせました。
当初は制度も整っておらず、地域の理解も十分とは言えない中、父は一人ひとりの利用者さんと向き合いながら、少しずつ信頼を築いていったそうです。小さな事務所から始まり、看護師も数名しかいない時期もあったと聞いています。それでも、「住み慣れた家で最期まで過ごしたい」という声に応え続けるうちに、地域から少しずつ支持をいただけるようになり、今では複数の看護師やスタッフを抱えるステーションにまで成長しました。
私自身、そんな父の姿を幼いころから見て育ちましたので、「誰かの暮らしを支える仕事ってかっこいいな」と感じていたんです。ただ、正直なところ、学生時代は他の仕事に興味を持った時期もありましたし、経営を引き継ぐことは当初全く想定していませんでした。でも、看護師として実際に現場で働きながら、この仕事の意味と価値を実感するにつれて、自然と「この場所を守りたい、引き継ぎたい」という気持ちが芽生えてきました。
結果的に、父が立ち上げたこの会社と理念を、私自身の手で未来へとつなげていくことになった今、その責任の重さとともに、大きなやりがいも感じています。これからも創業者である父の想いを大切にしつつ、私なりの視点や現場経験を活かして、新しい風を吹き込んでいけたらと思っています。
大切にしている経営理念は何ですか?
私が大切にしている経営理念は、「ひとりひとりの暮らしに、心を寄せる医療を」という想いに集約されます。これは、創業者である父が長年掲げていた「地域で安心して最期まで生きられる仕組みを作りたい」という理念を受け継ぎつつ、私自身が現場で看護師として感じてきたこと、そして経営者として見えてきた課題や可能性を組み合わせて形にしたものです。
訪問看護というのは、医療行為だけを提供する仕事ではありません。そこには、利用者さんの「その人らしい暮らし」をどう支えるか、という視点が何よりも大切です。たとえば、点滴や処置だけでなく、「今日は少し気持ちが沈んでいたけど、笑顔になってくれた」とか、「家族と過ごす時間を大切にできるようになった」といった、小さな変化に寄り添えるのがこの仕事の醍醐味です。だからこそ、私たちは単なるサービス提供者ではなく、暮らしのパートナーでありたいと思っています。
もう一つ、私が強く意識しているのが、「現場主義と持続可能性の両立」です。看護師として現場にいた頃、忙しさの中でスタッフが心身ともに疲弊してしまうケースを目の当たりにしました。利用者に良いケアを届けるには、スタッフが安心して働ける環境が不可欠です。ですので、経営者となった今は、スタッフ一人ひとりの声に耳を傾け、現場のリアルを反映した運営方針を大切にしています。
その一方で、理想だけでは事業は続きません。制度改定、人材不足、地域格差など、在宅医療を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。だからこそ、「理念を現実にするために、経営を強くする」という姿勢も欠かせません。数字にもしっかりと向き合いながら、継続可能な仕組みをつくること、それが理念を守り抜くための土台になると考えています。
訪問看護はこれからますます必要とされる分野です。しかしその反面、支える側が疲弊してしまえば、継続も拡大もできません。だから私は、利用者にも、働く人にも、地域にも“あたたかくて強い”組織をつくることを自分の使命だと感じています。
父が蒔いた種を、次の世代につなげるために。現場を知る者だからこそできる経営を、これからも誠実に続けていきたいと思っています。
大変なことは何ですか
正直に申し上げると、経営者として日々感じているのは、「現場の理想と経営の現実のバランスをどう取るか」という難しさです。私はもともと看護師として現場で働いていたので、スタッフがどれほど多忙な中で、一人ひとりの利用者さんに丁寧に向き合おうとしているかを、肌で知っています。だからこそ、「もっと時間をかけて関わってあげたい」「スタッフが無理なく働ける環境にしたい」という理想を強く持っています。
しかし、経営という立場に立つと、理想だけではやっていけない現実にも直面します。訪問看護は制度上、報酬や稼働率に大きく左右される事業です。看護師を増やすにしても、教育や人件費、稼働率との兼ね合いをしっかり見ていかないと、会社そのものが立ち行かなくなってしまう。そのジレンマに、何度も悩まされてきました。
もう一つの苦労は、人材の確保と定着です。訪問看護は高いスキルと判断力が求められ、かつ1人で訪問する場面も多いため、心理的な負担も少なくありません。病院経験が長い看護師さんでも、在宅という“未知のフィールド”に不安を感じて一歩を踏み出せないという声もよく聞きます。現場では「教育の時間が足りない」「フォローが追いつかない」といった声も出てきます。
そこで私たちは、プリセプター制度やeラーニングの導入、同行訪問の充実など、育成面を強化する取り組みを続けています。ただ、それでも「ベテランが育てながらも現場を回す」という体制には、どうしても負荷がかかってしまう。この“育てながら支える”構造をどう安定させていくかは、今も大きな課題です。
そして個人的には、「社長としての責任の重さ」に、時折プレッシャーを感じることもあります。父の代から続く会社を継いだからこそ、「簡単にやめるわけにはいかない」「失敗は許されない」と思ってしまうこともありますし、スタッフや利用者さん、そのご家族、多くの方の生活がこの会社に関わっていると考えると、自然と気が引き締まります。
ただ、苦労があるからこそ、この仕事には深い意味があるとも感じています。どんなに難しい場面でも、「この人がうちのサービスを選んでくれてよかった」と思ってもらえるように、日々の小さな選択を丁寧に積み重ねていくしかない。そんな想いで、これからも経営に向き合っていきたいと思っています。
今後のビジョンを教えてください
私が目指しているのは、「地域包括ケアのハブとなるような訪問看護ステーション」です。これから日本は超高齢社会がさらに加速し、自宅で療養したり、最期を迎える人がますます増えていきます。そんな時代において、訪問看護が果たす役割は、今以上に重要になっていくと確信しています。
ただ、在宅医療や介護の現場は、まだまだ課題が山積みです。医療・看護・介護・福祉がうまく連携できていないケースも少なくありません。そこで、私たちは単に「訪問看護を提供する組織」にとどまらず、地域の多職種としっかりつながり、必要な支援をシームレスに届ける“調整役”としての存在価値を高めていきたいと考えています。
また、ICTやAIの導入による業務の効率化・見える化にも力を入れていきたいです。たとえば、記録や報告書の自動化、遠隔カンファレンスの活用、モニタリングデバイスとの連携など、テクノロジーの力を取り入れることで、訪問看護師の負担を軽減し、より本質的なケアに集中できる環境を整えたいと考えています。
さらに、将来的には訪問看護を中心にした「在宅医療ネットワーク」の構築も視野に入れています。訪問診療やリハビリ、薬局、ケアマネジャーと連携した包括的なチームをつくり、「この地域にいれば安心」と言っていただけるような体制を整えたい。そうすることで、家族の介護負担や医療資源の集中も和らぎ、地域全体のQOL(生活の質)向上にもつながると信じています。
そして何より、働くスタッフが「この職場で働けてよかった」と思える会社づくりも、ビジョンの柱です。在宅医療を支える人材が増えなければ、どんなに良い仕組みをつくっても機能しません。働き方の柔軟性、教育体制、キャリア支援、メンタルサポートなど、スタッフ一人ひとりの人生と向き合い、成長できる環境をつくることも、私の大切な使命だと感じています。
父が築き、私が受け継いだこの会社を、次の時代へしっかりつなげていくために。
「地域に選ばれ、働く人に選ばれるステーション」を実現する。それが、今の私のビジョンです。